「設備投資をしたい」
「これまでとは違う新しい事業に挑戦したい」
「自社の商品やサービスを海外へ展開したい」
こうした中小企業・小規模事業者の取組を支援する制度として、2026年度に注目されているのが、
「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」
です。
本補助金では、
- 技術的革新性のある新製品・新サービスの開発
- 既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出
- 海外市場開拓に向けた国内の輸出体制強化
といった取組を支援し、中小企業等の企業規模拡大や付加価値向上、生産性向上、そして賃上げにつなげることを目的としています。
今回は、2026年8月24日公開の「応募申請ガイド(第1回)1.0版」をもとに、制度概要から申請準備、審査、採択後の注意点まで、実務上重要なポイントを整理して解説します。
本記事は2026年8月31日時点、「応募申請ガイド(第1回)1.0版」に基づいて作成しています。公募回によって制度内容、補助上限額、申請期限、必要書類等が変更される可能性がありますので、実際の申請時には必ず最新の公募要領・応募申請ガイドをご確認ください。
1.どんな補助金? 3つの事業枠
本補助金には、取組内容に応じて3つの事業枠が設けられています。
① 革新的新製品・サービス枠
顧客等に新たな価値を提供することを目的として、自社の技術力等を活用した新製品・新サービスの開発を支援する枠です。
一方で、
- 既存の製品・サービスの生産プロセスを改善するだけ
- 機械設備を導入するだけで、新製品・新サービスの開発を伴わない
- 同業他社ですでに相当程度普及している製品・サービスを導入する
といった取組は、技術的革新性が認められない例として示されています。
つまり、
「新しい機械を買いたい」だけでは足りず、その設備を使ってどのような新しい価値を生み出すのか
という部分が重要になります。
② 新事業進出枠
これまでの事業とは異なる、新たな市場・高付加価値事業への進出を支援する枠です。
この枠では、
- 製品・サービス等の新規性
- 市場の新規性
の両方を満たす必要があります。
ここでいう「新規性」は、日本初・世界初である必要はありません。
あくまで、
申請する事業者自身にとって新しい取組であること
が基準になります。
ただし、
- 既存商品の販売量を増やすだけ
- 過去に販売していた商品を再販売する
- 製造方法だけを変更する
- 公募開始前からすでに販売・提供を開始し、売上が発生している
といった場合には、製品等の新規性が認められない可能性があります。
また、単に別地域へ出店するだけなど、対象となる顧客層や市場自体が変わらないケースも、市場の新規性が認められない例として示されています。
③ グローバル枠
自社の製品等を活用し、自ら新たな海外販路を開拓するための国内製造等拠点の強化を支援する枠です。
単に他社から仕入れた商品を海外へ転売する場合や、取引先からの発注に応じて輸出用製品を製造するだけでは、対象にならない可能性があります。
また、進出先の市場についても、自社にとって新たな海外市場であることが求められます。
既に輸出実績のある国・地域に対して同一製品を増産・拡販するだけの場合や、単に供給ルートを変更するだけの場合などは、新規性の要件を満たさない例として示されています。
重要なのは、
海外販路の開拓を、自社の事業戦略として主体的に行うこと
です。
2.補助金額・補助率
補助金額は事業枠だけでなく、従業員数によって上限額が変わります。
革新的新製品・サービス枠
| 従業員数 | 補助上限額 | 賃上げ特例適用時 |
|---|---|---|
| 1~5人 | 750万円 | 850万円 |
| 6~20人 | 1,000万円 | 1,250万円 |
| 21~50人 | 1,500万円 | 2,500万円 |
| 51人以上 | 2,500万円 | 3,500万円 |
補助下限額は100万円です。
補助率は原則として、
- 中小企業者:1/2
- 小規模企業者・小規模事業者・再生事業者:2/3
となります。
中小企業者については、地域別最低賃金引上げ特例の要件を満たした場合、補助率が2/3となる場合があります。
新事業進出枠・グローバル枠
| 従業員数 | 補助上限額 | 賃上げ特例適用時 |
|---|---|---|
| 1~20人 | 2,500万円 | 3,000万円 |
| 21~50人 | 4,000万円 | 5,000万円 |
| 51~100人 | 5,500万円 | 7,000万円 |
| 101人以上 | 7,000万円 | 9,000万円 |
補助下限額は750万円です。
補助率は、
- 新事業進出枠:原則1/2
- グローバル枠:2/3
となっています。
なお、
賃上げ特例は補助上限額を引き上げる制度
であり、
地域別最低賃金引上げ特例は、一定の場合に補助率を引き上げる制度
です。
両者は別の特例制度ですので、混同しないよう注意が必要です。
3.補助対象となる経費
補助対象経費は12区分とされており、代表的なものとして、
- 機械装置・システム構築費
- 建物費
- 運搬費
- 技術導入費
- 知的財産権等関連経費
- 外注費
- 専門家経費
- クラウドサービス利用費
- 広告宣伝・販売促進費
- 原材料費
- 海外旅費
- 通訳・翻訳費
などがあります。ただし、
採択されたからといって、応募時に計上した経費がすべて補助対象になるとは限りません。
採択後の交付申請において、経費の必要性や妥当性などが改めて確認されます。
したがって、見積書を集めて「使えそうな経費を全部入れる」という考え方ではなく、
その設備や支出が、補助事業を実施するためになぜ必要なのかを事業計画と一体で説明できることが重要です。
4.第1回公募のスケジュール
第1回公募のスケジュールは次のとおりです。
- 公募開始:2026年6月29日(月)
- 応募申請受付:2026年9月30日(水)~
- 応募申請締切:2026年10月30日(金)18時
- 採択発表:2027年1月予定
応募申請は電子申請のみで、書面による申請はできません。
また、電子申請システムの利用には、「GビズIDプライムアカウント」が必要です。
申請直前になって慌てることのないよう、GビズIDの準備とあわせて、事業内容の整理、必要書類の収集、数値計画の作成などを早めに進めておくことをおすすめします。
5.申請するために必要となる「基本要件」
本補助金では、原則として次の6つの基本要件を満たす事業計画を策定する必要があります。
① 付加価値額要件
補助事業終了後3~5年間の事業計画期間において、
付加価値額の年平均成長率+4.0%以上
の目標を策定し、達成する必要があります。
② 賃上げ要件
一人当たり給与支給総額について、年平均成長率+3.5%以上の目標を策定・達成する必要があります。
ここで特に注意したいのが、自ら設定した目標値が達成判定の基準になるという点です。
例えば、最低基準が3.5%以上だからといって、無理に5%や6%といった高い目標を設定すると、その自ら設定した目標値が達成判定の基準となります。
実績として3.5%以上を達成していても、自ら設定した目標値を下回れば要件未達となるため注意が必要です。
③ 事業場内最低賃金水準要件
補助事業終了後3~5年の事業計画期間中、
事業場内最低賃金を、地域別最低賃金+30円以上の水準とする必要があります。
毎年の事業化状況報告において基準を満たしていなかった場合には、一定額の補助金返還が求められる場合があります。
④ ワークライフバランス要件
次世代育成支援対策推進法に基づく、一般事業主行動計画を策定し、応募申請時までに「両立支援のひろば」へ公表する必要があります。
公表までには1~2週間程度かかる可能性があり、ガイドでは2週間以上余裕を持って公表申請を行うよう案内されています。
⑤ 子育て等に関する職場環境整備要件
次の3つの取組のうち、いずれか1つを選択し、具体的な実施内容を事業計画に記載する必要があります。
- 若手従業員向けの「ライフデザインサービス」の活用
- 育児等支援を目的とした家事代行・ベビーシッターサービスの活用
- 産休・育休や短時間勤務制度など、子育て等に関する既存制度の周知・普及・啓発
一定のくるみん認定(トライくるみん・くるみん・プラチナくるみんのいずれか)を受けている事業者については、この要件が免除されます。
⑥ 金融機関要件
金融機関から補助事業に必要な資金提供を受ける場合は、
資金提供元の金融機関から事業計画の確認を受ける必要があります。
その場合、「金融機関による確認書」の提出が必要です。
6.「採択される数字」より「達成できる数字」が重要
補助金申請というと、
「少しでも高い目標を掲げた方が、審査では有利なのでは?」
と考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、本補助金ではその考え方には注意が必要です。
事業計画で設定した数値目標は、採択後にも継続して確認されます。
例えば、一人当たり給与支給総額について目標を達成できなかった場合、原則として、未達成率に応じた補助金の返還が求められます。一定の場合には返還を求めない例外も設けられています。
つまり、
「採択されるための事業計画」ではなく、「実際に実行し、達成できる事業計画」を作ること
が非常に重要です。
補助金は、申請時だけを乗り切れば終わりという制度ではありません。
7.審査では何を見られるのか
書面審査では、事業計画の内容について複数の観点から評価されます。
例えば、
- 補助対象事業として適切であるか
- 自社の経営戦略と整合しているか
- 事業を実行する体制や財務基盤があるか
- 新市場性・高付加価値性があるか
- 公的資金を投入する必要性があるか
- 政策目的に合致しているか
といった点です。
単に、
「新しい設備を導入すると売上が増えます」
という説明だけでは十分とはいえません。
なぜその事業が必要なのか、既存事業とどのようにつながるのか、競合との差別化はどこにあるのか、そして実際に実行可能なのか。
こうした内容を、一貫した事業計画として説明する必要があります。
8.加点項目・減点項目も確認しておく
一定の認定や取組等を行っている場合、審査上の加点を受けられる場合があります。
例えば、
- パートナーシップ構築宣言
- くるみん認定
- えるぼし認定
- 健康経営優良法人
- 経営革新計画
- 事業継続力強化計画
- DX認定
- J-Startup等
などが加点項目として示されています。
なお、パートナーシップ構築宣言については、第1回公募では所定の条件を満たした宣言の公表が必要とされていますので、実際に加点を利用する際には最新の要件を確認する必要があります。
一方、過去3年間にものづくり補助金または新事業進出補助金で交付決定を受けた事業者や、過去の補助事業において賃上げ要件・事業場内最低賃金水準要件を達成できなかった事業者などについては、減点対象となる場合があります。
申請直前になってから加点項目を探すのではなく、
申請準備の早い段階で、自社が利用できる加点項目がないか確認しておく
ことをおすすめします。
9.口頭審査が行われる場合もある
一定の審査基準を満たした事業者の中から、必要に応じて口頭審査が行われます。
口頭審査はオンラインで行われ、事業計画について、
- 適格性
- 優位性
- 実現可能性
- 継続可能性
などが確認されます。
そして非常に重要なのが、審査は申請事業者自身が対応しなければならないという点です。
事業計画作成支援者、経営コンサルタント、社外顧問等による代理対応や同席は認められていません。
つまり、申請した事業計画を、経営者自身が自分の言葉で説明できるかが重要になります。
10.外部支援者を利用する際の注意
今回の応募申請ガイドでは、外部支援者の活用について明確な注意喚起が行われています。
認定支援機関を含む外部支援者から、
- 事業計画について助言を受ける
- 内容を整理する
- ブラッシュアップを行う
こと自体は問題ありません。
一方で、
事業計画そのものは、必ず申請者自身で作成する必要があります。
申請者以外が作成したことが判明した場合、不採択、採択取消、交付決定取消となる可能性があります。
さらにガイドでは、
- サービス内容とかい離した高額な成功報酬
- 金額や条件が不透明な契約
- 強引な働きかけ
- 経費の水増しなど虚偽記載を勧める行為
- 作成支援者名を記載しないよう求める行為
などについても注意喚起されています。
したがって、外部専門家に求められる役割は、
申請書を代わりに書くことではなく、経営者が自ら説明できる事業計画へブラッシュアップしていくための伴走支援
であるといえます。
11.採択後もすぐに設備を発注してはいけない
補助金では、採択=すぐに事業を始めてよいというわけではありません。
交付決定日より前に契約・発注した経費は、補助対象になりません。
そのため、採択通知を受けたからといって、すぐに機械を発注したり工事契約を締結したりするのではなく、
必ず交付決定を確認してから着手することが重要です。
12.補助事業には期限がある
補助事業実施期間も事業枠によって異なります。
革新的新製品・サービス枠
交付決定日から10か月以内。
ただし、採択発表日から12か月以内に完了する必要があります。
新事業進出枠・グローバル枠
交付決定日から14か月以内。
ただし、採択発表日から16か月以内です。
さらに、この期間内に、
契約・発注、納入、検収、支払まで、すべて完了させる必要があります。
原則として補助事業実施期間の延長は認められません。
設備の納期や工事期間まで考慮して、現実的なスケジュールを組む必要があります。
13.採択・交付決定後も続く報告義務
補助事業が完了したら、
補助事業完了日から30日後、または補助事業完了期限日のいずれか早い日まで
に実績報告書等を提出する必要があります。
さらに、補助事業完了年度の終了後を初回として、
その後5年間にわたり、合計6回
事業化等の状況を「事業化状況・知的財産権等報告書」により報告する必要があります。
報告内容等から賃上げ要件などの補助対象事業要件を達成できていないと判断された場合には、補助金の返還を求められる場合があります。
つまり、
採択されたら終わりではなく、そこから事業計画を実行し、成果を確認していく期間が始まる
という制度です。
14.まとめ|補助金申請で大切なのは「事業計画そのもの」
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、
設備投資、新製品・新サービス開発、新市場への進出、海外販路開拓などを検討している事業者にとって、大きな可能性のある制度です。
一方で、
- 自社にとって本当に新しい取組なのか
- 市場性があるのか
- 設備投資の必要性を説明できるか
- 賃上げなどの数値目標を現実的に達成できるか
- 補助事業終了後も事業を継続できるか
といった部分まで、しっかりと設計する必要があります。
特に今回の制度では、申請者自身が事業計画を作成し、内容を理解したうえで申請することが求められています。
応募申請についても、
「必ず申請者自身にて、入力した内容を理解したうえで申請する必要があります」とされています。
補助金申請で重要なのは、「うまく申請書を書くこと」ではありません。
自社の現状を整理し、これから何をするのか、なぜ必要なのか、どのように付加価値を生み出し、事業として継続していくのかを、経営者自身が説明できる事業計画にすることです。
行政書士権藤涼太事務所へのご相談について
行政書士権藤涼太事務所では、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の活用を検討されている事業者の方を対象に、
事業内容の整理、事業計画の検討、数値計画や申請内容のブラッシュアップ等に関するご相談を承っております。
本補助金では、事業計画自体は申請者ご自身で作成する必要があります。
そのため当事務所では、申請内容を単に「代わりに作る」のではなく、
経営者の頭の中にある事業構想を整理し、自分の言葉で説明できる事業計画へとブラッシュアップしていく伴走型の支援を大切にしています。
久留米市・福岡県内で、
「この事業は対象になりそうか」
「設備投資を考えているが、どの枠が合うのか分からない」
「事業計画をどう整理すればいいのか分からない」
という方は、お気軽にご相談ください。
本記事は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 応募申請ガイド(第1回)」(2026年8月24日・1.0版)をもとに作成しています。制度内容、補助上限額、公募スケジュール、申請要件等は今後変更される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず最新の公募要領、応募申請ガイドおよび公式情報をご確認ください。

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