事業承継・M&A補助金〈16次公募〉が公表|既存のお店や事業を引き継いで独立するという選択肢

これから独立して、お店や事業を始めたい。

そう考えたとき、多くの方がまず思い浮かべるのは、

「新しく店舗を借りる」
「設備をそろえる」
「ゼロから新しい事業を立ち上げる」

といった方法ではないでしょうか。もちろん、それも立派な創業の形です。

一方で、これから独立を考える方に、ぜひ知っておいていただきたいもう一つの選択肢があります。

それが、「すでにあるお店や事業を引き継ぐ」という方法です。

2026年9月4日、中小企業庁から、令和7年度補正予算「事業承継・M&A補助金」の16次公募に関する公募要領が公表されました。

今回は、この補助金の概要とともに、

「事業承継とは実際にどのようなケースなのか」
「これから独立したい人にも関係があるのか」

という点を、できるだけ具体的に整理してみます。


目次

事業承継・M&A補助金とは?

「事業承継・M&A補助金」は、中小企業者等による事業承継やM&A、それに伴う設備投資などの取り組みに必要となる経費の一部を支援する制度です。

単純に、「会社やお店を買うためのお金が出る」という補助金ではありません。

事業承継やM&Aをきっかけとして、

  • 設備を入れ替える
  • 店舗や事務所を改修する
  • M&Aの専門家を活用する
  • M&A後の経営統合を進める
  • 廃業や再チャレンジに取り組む

といった場合に、一定の要件のもと支援を受けられる制度です。

16次公募では、大きく次の4つの枠が設けられています。

  • 事業承継促進枠
  • 専門家活用枠
  • 廃業・再チャレンジ枠
  • PMI推進枠

それぞれ対象となる事業者や経費、要件が異なります。

そのため、「事業を引き継ぐから、この補助金が必ず使える」というものではありません。


16次公募の申請期間

16次公募の申請受付期間は、現時点で次の予定となっています。

申請受付期間
2026年10月2日(金)~2026年11月6日(金)17時

申請は、国の電子申請システム「Jグランツ」を利用して行います。

そのため、申請を検討する場合には、原則としてGビズIDプライムの取得準備も必要です。

補助金は締切直前から準備を始めるよりも、

「そもそも対象になるのか」
「どの枠で申請するのか」
「何を補助対象経費とするのか」

といった点を早めに整理しておくことが重要です。


具体的には、どんなケースが考えられる?

「事業承継」と聞くと、

「大きな会社の社長交代の話では?」

と思われる方もいるかもしれません。

しかし、実際には地域の飲食店や美容室、小売店、小規模事業者などでも十分に起こり得る話です。

例えば、次のようなケースがあります。


例1 長年働いてきた飲食店を従業員が引き継ぐ

地域で長く営業してきた飲食店のオーナーが、高齢を理由に引退を考えているとします。

一方で、そのお店で長年働いてきた従業員が、

「この店を残したい」
「自分が経営を引き継ぎたい」

と考えている。

このような場合、従業員が事業を承継したうえで、

  • 古くなった厨房設備を入れ替える
  • 店内を改装する
  • 新しいメニュー展開に合わせて設備を導入する
  • 業務効率化のためのシステムを導入する

といった取り組みを行うケースが考えられます。

一定の要件を満たせば、事業承継促進枠の活用を検討できる可能性があります。

ゼロから店舗を探し、内装工事や厨房設備の導入を行うのとは違い、既存の店舗や顧客、取引先などを活かしながら独立できる可能性がある点は大きな特徴です。


例2 親が経営する会社や事業を子が引き継ぐ

次に、親が長年経営してきた事業を子が引き継ぐケースです。

例えば、

  • 製造業
  • 小売業
  • 飲食店
  • サービス業
  • 建設関連事業

などが考えられます。

これまで親が経営してきた事業を子が承継し、そのタイミングで、

  • 古い機械を新しくする
  • 店舗や事務所を改装する
  • 業務システムを導入する
  • 新しい商品やサービスを始める

といった取り組みを行う。

このような親族内承継も、事業承継促進枠の代表的なイメージです。

単なる名義変更ではなく、「事業を引き継いだ後、どう成長させていくのか」という事業計画が重要になります。


例3 美容室や小売店をスタッフが引き継ぐ

美容室や小売店などでも、従業員承継は十分考えられます。

例えば、美容室のオーナーが引退を考えている一方で、長年勤務してきた美容師が独立を考えている場合。

ゼロから新しい店舗を作る方法もありますが、現在の店舗を引き継ぐことで、

  • 既存顧客
  • 店舗設備
  • 取引先
  • 屋号
  • 地域での認知度

などを活かせる可能性があります。

一方で、

  • 設備が古くなっていないか
  • 賃貸借契約を引き継げるのか
  • 許認可や届出はどうなるのか
  • 従業員との雇用関係をどうするのか

などの確認も必要です。

「今あるものを引き継げる」というメリットがある一方で、

「引き継いだ後に問題が出ないよう事前確認を行うこと」

も非常に重要です。


例4 後継者がいない店を第三者に譲る

今度は、親族や従業員ではなく、第三者に事業を譲るケースです。

例えば、

「年齢的に店を続けるのが難しくなってきた」

「子どもは別の仕事をしていて後を継ぐ予定がない」

という飲食店のオーナーがいるとします。

その場合、

「閉店してしまう」

という選択肢だけではありません。

第三者に店や事業を譲る、いわゆるM&Aを検討する方法もあります。

ただし、この場合は親族内承継や従業員承継とは異なるため、事業承継促進枠ではなく、専門家活用枠など別の枠を検討することになります。


例5 「廃業するしかない」と思っていた事業を売却する

これは小規模事業者にも身近なケースです。

売上はある。

お客様もいる。

しかし、経営者本人の年齢や体力、家庭事情などによって、事業を続けることが難しくなってきた。

このような場合、経営者自身は、

「もう廃業するしかない」

と考えているかもしれません。

しかし、実際にはその事業に、

  • 顧客
  • 取引先
  • 設備
  • 屋号
  • ブランド
  • ノウハウ
  • 従業員
  • 地域での信用

といった価値が残っている場合があります。

そうした事業を第三者へ譲渡できれば、単に廃業するのではなく、次の経営者へ事業をつなげられる可能性があります。

16次公募では、小規模事業者のM&Aにおける専門家費用を支援する「小規模売り手支援類型」も設けられています。


例6 独立したい人が「ゼロから開業するか、既存店を引き継ぐか」を比較する

これから独立したい方にとっても、事業承継は関係があります。

例えば、

「自分の飲食店を持ちたい」

と考えている方がいたとします。

ゼロから始める場合には、

物件を探し、

  • 賃貸借契約
  • 内装工事
  • 厨房設備
  • 備品購入
  • メニュー開発
  • 仕入先開拓
  • 集客
  • SNS
  • 営業許可

など、ほぼすべてを一から準備する必要があります。

一方で、

後継者を探している既存の飲食店があり、その事業を引き継げるのであれば、

設備や顧客、取引先などを活かしながらスタートできる可能性があります。

もちろん、どちらが良いとは一概に言えません。

新規創業には新規創業の自由度がありますし、事業承継には既存事業を利用できるメリットがあります。

大切なのは、

「独立=ゼロから始めるもの」

と決めつけないことです。


注目したい「事業承継促進枠」

今回の16次公募で、これから承継を予定している事業者に関係するのが「事業承継促進枠」です。

この枠では、公募申請終了日から5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している中小企業者等が、事業承継を契機として行う設備投資等について支援対象となる場合があります。

例えば、

  • 機械設備の導入
  • 店舗や事務所の改装
  • 生産性向上のための設備投資
  • 一定の外注費や委託費

などです。

ただし、

事業を引き継げば自動的に補助対象になるわけではありません。

承継後にどのように事業を成長させるのか、生産性をどのように向上させるのかといった事業計画が重要になります。

また、第三者から事業を買い取るM&Aについては、原則としてこの事業承継促進枠ではなく、別の枠を検討することになります。


補助金だけで事業承継を判断しない

このような補助金が公表されると、

「補助金が出るなら事業を引き継いでみよう」

と考えたくなるかもしれません。

しかし、順番は逆です。

まず考えるべきなのは、その事業を本当に引き継ぐ価値があるのかという点です。

例えば、

  • 売上は安定しているのか
  • 利益は出ているのか
  • 借入金はないのか
  • 設備は古くないか
  • 賃貸借契約は引き継げるのか
  • 従業員との契約はどうなるのか
  • 許認可はどうなるのか
  • 取引先との関係は維持できるのか

といったことを確認する必要があります。

そのうえで、

「利用できる補助金や融資があるか」

を検討する。

この順番が重要です。


許認可がある事業は特に注意が必要

事業承継やM&Aでは、許認可についても注意が必要です。

例えば、

  • 飲食店営業
  • 古物商
  • 旅館業
  • 建設業
  • 運送業
  • 産業廃棄物関連

など、行政上の許可や届出が必要な事業では、事業を引き継いだからといって、必ずしもその許認可までそのまま引き継げるとは限りません。

法人そのものを株式譲渡によって取得する場合と、事業だけを譲り受ける事業譲渡とでは、取扱いが異なる場合もあります。

許認可ごとに承継手続や新規申請の要否が異なるため、

事業を引き継ぐ前に確認しておくことが重要です。


補助金は「先にもらえるお金」ではない

補助金を利用する場合に、もう一つ重要な注意点があります。

補助金は原則として、

「採択されたらすぐにお金が振り込まれて、そのお金で設備を買える」

という仕組みではありません。

一般的には、

採択

交付申請

交付決定

事業実施

事業者が代金を支払う

実績報告

補助金額の確定

補助金支給

という流れになります。

そのため、設備投資等を行う資金については、一度事業者側で用意する必要があります。

つまり、

補助金と資金繰りは別問題

です。

創業や事業承継を考える場合には、

  • 自己資金
  • 日本政策金融公庫等の融資
  • 金融機関からの借入れ
  • 補助金

などを組み合わせ、全体の資金計画を作ることが重要です。


事業承継は一人の専門家だけで完結するものではありません

事業承継やM&Aには、さまざまな専門分野が関係します。

例えば、

  • 契約
  • 税務
  • 登記
  • 労務
  • 不動産
  • 企業価値評価
  • M&A
  • 許認可
  • 補助金
  • 融資

などです。

そのため、案件によっては弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、社会保険労務士、M&A専門家などとの連携が必要になります。

行政書士としては、

  • 事業計画の整理
  • 補助金申請に関する書類作成支援
  • 許認可の確認
  • 事業承継に伴う行政手続
  • 契約書等の書類作成
  • 創業・資金調達に向けた事前整理

などで支援できる場面があります。

特に、許認可が必要な事業を引き継ぐ場合には、

「引き継いだ後もそのまま営業できるのか」

を早い段階で確認しておくことが大切です。


久留米・筑後地域で独立を考えている方へ

新しく事業を始める方法は、一つではありません。

ゼロから新しいお店を作る。

個人事業として始める。

会社を設立する。

そして、

地域ですでに続いているお店や事業を引き継ぐ。

これも一つの独立方法です。

地域の小規模事業では、

「後継者がいないから閉店する」

というケースも少なくありません。

一方で、

「自分で商売を始めたい」

「いつか自分のお店を持ちたい」

という方もいます。

もし両者をつなぐことができれば、地域で長く続いてきた事業を残しながら、新しい経営者が新しい形で育てていくこともできます。

事業承継・M&A補助金は、そのために活用を検討できる制度の一つです。


まとめ

2026年9月4日、「事業承継・M&A補助金」の16次公募要領が公表されました。

申請受付は、

2026年10月2日(金)から11月6日(金)17時まで

の予定です。

この制度は、

  • 親から子への事業承継
  • 従業員への事業承継
  • 第三者への事業譲渡
  • M&Aに伴う専門家活用
  • 承継後の設備投資

など、さまざまな場面で活用を検討できる制度です。

ただし、大切なのは補助金そのものではありません。

まず、

「どの事業を引き継ぐのか」
「どのような方法で承継するのか」
「承継後にどう経営していくのか」
「許認可はどうなるのか」
「資金はどう準備するのか」

といった点を整理することが重要です。

行政書士権藤涼太事務所では、久留米市を中心に、これから独立・開業を考えている方に対し、事業計画、融資・補助金、各種許認可などを含めた創業支援を行っています。

「ゼロから創業するか、既存の事業を引き継ぐか迷っている」

「事業承継に伴う許認可を確認したい」

「補助金や融資も含めて事業計画を整理したい」

といった段階からでもご相談いただけます。

事業を始める方法を一つに決めつけず、それぞれの状況に合った方法を整理していくことが重要です。


※本記事は2026年9月7日時点で公表されている中小企業庁及び事業承継・M&A補助金事務局の16次公募に関する情報をもとに作成しています。制度内容、申請要件、補助対象経費、補助率、補助上限額等は変更される可能性があります。実際に申請する際は、必ず最新の公募要領・公式情報をご確認ください。

※補助金は申請すれば必ず採択されるものではありません。

※事業承継・M&Aでは、承継方法や事業内容によって税務、法務、登記、労務その他の専門的判断が必要となります。必要に応じて弁護士、税理士、公認会計士、司法書士、社会保険労務士その他の専門家への確認が必要です。

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この記事を書いた人

福岡・久留米を拠点に活動する行政書士。創業支援・補助金・許認可申請を中心に、小さなビジネスの立ち上げから法務面のサポートまで幅広く対応。WebメディアやSNSを活用した広報支援にも力を入れており、事業者の「想いをカタチにする」お手伝いがライフワーク。
このコラムでは、実務に役立つ情報や行政書士としてのリアルを発信中。

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