結婚や共同生活について、契約書や合意書を作るという考え方は、まだ日本ではそれほど一般的ではないかもしれません。
「結婚するのに契約書まで必要なのだろうか」「夫婦なのだから、そこまで細かく決めなくてもよいのではないか」と感じる方もいると思います。
しかし、結婚は単に一緒に暮らし始めるというだけではありません。住居、生活費、財産、働き方、住宅購入、子ども、親との関係など、人生のさまざまな部分に大きな影響を与えます。
それだけ重要な関係であるにもかかわらず、大切なことほど「お互い分かっているはず」「今は関係が良いから大丈夫」と、口約束のまま進んでしまうことも少なくありません。
そして、考えておくべきことがあるのは結婚前だけではありません。結婚後に生活環境が変わったり、住宅を購入したり、一方が独立・開業したり、家計管理の方法を見直したりする中で、夫婦の間で改めて確認しておいた方がよい事項が出てくることもあります。
こうした場面で重要なのが、問題が起きてから対応するのではなく、問題が起きる前に認識を整理しておく「予防法務」という考え方です。
出会い方や家族の形が多様になった今だからこそ
現在は、人との出会い方も、家族の形も大きく変わっています。
職場や友人からの紹介だけでなく、SNSやオンラインサービスを通じて、これまで接点のなかった人と知り合うことも珍しくありません。また、法律婚だけでなく、事実婚を選ぶ方、再婚する方、夫婦それぞれが独立して財産を管理する家庭など、そのあり方も多様です。
こうした変化自体は、決して悪いことではありません。選択肢が増えたことで、それぞれの価値観に合った生活を選びやすくなったともいえます。
一方で、人間関係や生活の形が多様になればなるほど、「自分にとっての当たり前」と「相手にとっての当たり前」が一致しているとは限らないという問題も出てきます。
生活費はどちらがどの程度負担するのか。結婚前から持っている預貯金や不動産をどう考えるのか。住宅を購入する場合の頭金やローン負担をどうするのか。親から相続や贈与を受けた財産をどう管理するのか。相手にまとまったお金を渡した場合、それは貸付けなのか援助なのか。
こうしたことは、どちらか一方が正しいという話ではありません。重要なのは、二人の認識が一致しているかどうかです。
近年では、交際相手の婚姻状況や職業、収入、財産関係などについて、事実と異なる説明がされていたことが後に判明し、大きなトラブルに発展する事例も報じられています。
もちろん、契約書や確認書を作れば、人の嘘や不誠実な行動を完全に防げるわけではありません。ただ、人生に関わる大きな決断をする前に、重要な事項について一度確認し、必要に応じて書面として残しておくという考え方には大きな意味があります。
婚前契約書は「離婚の準備」ではありません
婚前契約書という言葉を聞くと、「結婚前から離婚を考えているようで嫌だ」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、婚前契約書の役割は、将来の離婚だけを想定するものではありません。
むしろ、これから生活をともにする二人が、お互いにどのような考えを持っているのかを確認するための書面として利用することができます。
たとえば、結婚前からそれぞれが持っている財産、借入れの有無、結婚後の生活費や家計管理、住居費の負担、住宅購入をする場合の資金負担などについて整理することが考えられます。
共働きを続けるのか、一方が仕事を辞める可能性があるのか。生活費は折半するのか、収入に応じて負担するのか。共通口座を作るのか、それぞれの収入はそれぞれで管理するのか。
こうしたことは、結婚前にはあえて細かく話さないまま進むこともあります。
しかし、婚前契約書を作ろうとすると、「相手がどう考えているのか」「自分は何を大切にしているのか」を具体的に話す必要が出てきます。
その意味では、婚前契約書の価値は、完成した一枚の書面だけにあるわけではありません。
契約書を作る過程で、お互いの考えを確認すること自体に意味があるのです。
結婚した後にも、書面を作る意味はある
予防法務は、結婚前だけのものではありません。
結婚後に生活状況が変われば、改めて夫婦の間で確認しておいた方がよいことが出てくる場合があります。
たとえば、住宅を購入することになった場合、頭金をどちらがどれだけ負担するのか、毎月の返済をどう分担するのか、親から援助を受ける場合にそのお金をどう考えるのか、といった点は将来の財産関係にも影響します。
また、一方が会社員を辞めて独立・開業する場合や、夫婦のどちらかが事業を始める場合には、事業用のお金と家庭のお金をどのように管理するかを整理しておくことも重要です。
結婚後に親から相続や贈与を受けた場合、家計管理の方法を変更する場合、共働きから一方が仕事を辞める場合なども同様です。
こうした場面では、夫婦間の合意書として認識を整理することが考えられます。
ただし、夫婦間の契約や夫婦財産関係には民法上の特別な規定があります。そのため、「二人で署名すればどんな内容でも当然に有効になる」というものではありません。
何について合意したいのか、いつ作成するのか、法律上どこまで書面化することが適切なのかを確認しながら作成する必要があります。
事実婚やパートナー間でも、書面で整理できることがある
現在は、婚姻届を提出せず、事実婚という形で共同生活を選ぶ方もいます。
法律婚とは異なる部分があるからこそ、生活費、住居、財産、金銭関係などについて、二人の間でどのように考えるのかを整理しておくことには意味があります。
たとえば、生活費をどのように負担するのか、家具や自動車などの財産をどちらの所有とするのか、共同で貯めたお金をどう管理するのか、まとまった金銭を一方が負担した場合にどう考えるのか、といった内容です。
こうした事項について、事実婚・パートナー間の合意書として書面化することも考えられます。
家族の形が多様化しているからこそ、法律婚だけを前提とせず、それぞれの生活の形に合わせて権利義務を整理するという視点が重要になります。
恋人や婚約者とのお金の貸し借りも要注意
男女関係の中で、意外とトラブルになりやすいのが金銭のやり取りです。
「一時的に貸してほしい」「事業を始めるので援助してほしい」「二人で住む家の初期費用を立て替えてほしい」といった場面は珍しくありません。
関係が良好なうちは、「そのうち返してもらえばいい」と思っていても、関係が悪化した後になって「借りたのではなく、もらったお金だ」という認識の違いが生じることがあります。
まとまった金額を貸すのであれば、恋人や婚約者であっても、金額、返済期限、返済方法などを金銭消費貸借契約書や借用書として明確にしておくことが考えられます。
書面を作ることは、相手を信用していないという意味ではありません。
むしろ、大切な関係だからこそ、お金の問題を曖昧にしないという考え方です。
子どものことも、話し合えるうちに整理する
婚姻していない男女の間に子どもが生まれる場合には、認知や養育費、親子交流などについて話し合う必要が出てくることがあります。
双方が合意できているのであれば、その内容を合意書として整理することも考えられます。養育費などについては、公正証書による作成を検討する場合もあります。
ここでも重要なのは、問題が起きてからではなく、まだ話し合える段階で整理することです。
一度関係が悪化し、双方の主張が大きく食い違うようになると、単なる書類作成ではなく法的紛争へと変わっていきます。
行政書士の役割は「争う前」にある
行政書士は、権利義務に関する契約書や合意書の作成・相談等を業務としています。
一方で、すでに当事者間で法的紛争が生じている案件について、相手方との慰謝料や損害賠償等の交渉を代理したり、裁判を代理したりすることは行政書士の役割ではありません。
そのような場合には、弁護士への相談が必要になることがあります。
だからこそ、行政書士が力を発揮しやすいのは**「争いになる前」**です。
まだお互いに話し合える。これから結婚する。これから共同生活を始める。住宅を購入する。お金を貸す。家計管理を見直す。
その段階で一度、「二人の間で確認しておいた方がよいことはないだろうか」と考えてみる。
これが予防法務です。
「契約書を作るほどのことなのか分からない」段階でも構いません
法律専門職への相談というと、問題が起きてから利用するイメージが強いかもしれません。
しかし、予防法務ではむしろ逆です。
「結婚を考えているので、お互いの財産について整理しておきたい」
「再婚なので、財産関係を一度確認しておきたい」
「結婚後もお互いの収入は別々に管理したい」
「一緒に住宅を購入するので、費用負担を明確にしておきたい」
「事実婚という形で生活したいが、何を決めておけばよいのか分からない」
「恋人にまとまったお金を貸す予定がある」
こうした段階で相談することもできます。
まだトラブルになっていないからこそ、落ち着いて話を整理し、必要な内容を検討することができます。
行政書士が考える予防法務
行政書士権藤涼太事務所では、問題が起きた後に書類を作るだけではなく、問題が起きる前に、大切な約束を整理しておくことも行政書士の重要な役割だと考えています。
婚前契約書や夫婦間合意書などは、インターネット上の雛形に名前を入れれば完成するというものではありません。
「何について不安を感じているのか」「どのような生活を考えているのか」「どの財産について整理したいのか」によって、必要となる内容は異なります。
たとえば、「お互い再婚なので財産について確認したい」というケースと、「結婚後もそれぞれ収入を管理したい」というケースでは、確認すべき事項は違います。
住宅購入、独立・開業、事実婚、金銭の貸し借りなど、それぞれの状況に応じて、必要となる書面も変わります。
当事務所では、まず現在の状況やご希望を伺い、そもそも書面を作る必要があるのか、作るとすれば何を整理するべきなのかというところから一緒に考えます。
そのうえで、個別の事情に応じた契約書・合意書の作成を行います。
当事務所でご相談いただける主な書面
行政書士権藤涼太事務所では、たとえば次のような書面作成についてご相談を承っています。
- 婚前契約書・婚前合意書
- 夫婦間の合意書
- 事実婚・パートナー間の合意書
- 金銭消費貸借契約書・借用書
- 認知・養育費等に関する合意書
- 離婚協議書
- 公正証書原案の作成支援
- その他、生活上の権利義務に関する契約書・合意書
「契約書を作るほどのことなのか分からない」「何を決めておけばよいのか分からない」という段階でも構いません。
大切なのは、問題が起きてから慌てて整理するのではなく、関係が良好で話し合えるうちに、大切なことを確認しておくことです。
契約書は、人間関係を冷たくするためのものではありません。
むしろ、お互いの考えを確認し、将来の認識違いを少しでも減らすための道具として使うことができます。
結婚前にも、結婚後にも、事実婚という形を選ぶ場合にも。
大切な関係だからこそ、大切なことを曖昧にしない。
そんな予防法務の考え方が、これからもっと身近になっていけばよいと考えています。
料金の目安
当事務所では、ご相談内容を確認したうえで、必要な書面や手続をご案内しています。
| サービス内容 | 報酬の目安 |
|---|---|
| 婚前契約書・婚前合意書の作成 | 30,000円~ |
| 夫婦間・事実婚等の合意書作成 | 30,000円~ |
| 離婚協議書の作成 | 30,000円~ |
| 公正証書作成支援サポート(原案作成及び公証役場手続き支援) | +15,000円~ |
公正証書にする場合(公証役場との連絡・文案調整等)
婚前契約書、夫婦間合意書、離婚協議書などについて、公正証書による作成を希望される場合には、公証役場との連絡や必要事項の確認、文案調整などもサポートいたします。
書面作成報酬 + 15,000円~
※公証役場へ支払う公証人手数料その他の実費は、上記報酬とは別途必要です。
料金について
上記は標準的な内容の場合の目安です。財産関係が複雑な場合、確認事項や条項数が多い場合などは、事前に内容を確認したうえでお見積りいたします。「どの書面を作ればよいのか分からない」という段階でも構いません。まず現在の状況やご希望を伺い、必要な内容を整理したうえでご案内します。
ご注意
本稿は一般的な法制度や予防法務について解説するものであり、個別案件について特定の契約の有効性や法律効果を保証するものではありません。
婚前契約書、夫婦間合意書等については、記載した内容がすべて当然に法的効力を持つわけではありません。
夫婦間の契約については民法754条、夫婦財産関係については民法755条以下等の規定があり、内容や作成時期に応じた個別確認が必要です。
また、すでに当事者間で法的紛争が生じている場合や、相手方との交渉、損害賠償請求、慰謝料請求、訴訟・調停等を必要とする場合には、行政書士の業務範囲外となり、弁護士への相談が必要となる場合があります。
【法令等確認日:2026年9月】
参考資料
・e-Gov法令検索「行政書士法」
・e-Gov法令検索「民法」
・日本行政書士会連合会「行政書士の業務」
・日本行政書士会連合会「契約書」

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