プロでも起こりうる著作権侵害──無断トレース問題とは
近年、クリエイターによる「無断トレース」が問題になっています。SNS上に投稿された写真を本人の許可なくトレースし、それを自身の作品として商用利用してしまうケースです。実績のあるプロのクリエイターであっても、著作権に対する認識不足から、意図せず権利侵害をしてしまうことがあります。
この問題は、クリエイティブ業界だけでなく、SNSを利用するすべての方にとって重要な教訓を含んでいます。
今回は無断トレース問題を題材に、トレースと著作権の関係、そして私たち行政書士がどのようなサポートをできるのかを解説します。
トレースは違法なのか?ケースによって変わる法的判断
トレース自体は「練習方法」
まず誤解を解いておきたいのは、「トレース=悪」ではないという点です。イラストレーターや漫画家が画力向上のために他者の作品をトレースして練習することは、古くから行われてきた正当な学習方法です。
ただし、練習で描いたものをネットに公開したり、商用利用した瞬間に”私的使用の範囲”を超えるため注意が必要です。
著作権侵害が成立する3つの要件
著作権侵害が認められるには、次の3つの要件を満たす必要があります。
1. 著作権の存在
作品に創作性があり、著作物として保護されること
2. 依拠性
元の著作物を知っており、それを参考にしたこと
3. 類似性(直接感得性)
一般の人が見て「元の作品だ」とわかるほど似ていること
写真をそのままトレースして商用利用した場合、これらの要件を満たす可能性が極めて高いと考えられます。
無断トレース商用利用の何が問題なのか
1. 無許可での商用利用
元の写真の権利者(撮影者・モデル)に許可を得ずに商用利用する行為。これは著作権法上の複製権・翻案権の侵害に該当する可能性があります。
2. 著作者人格権の侵害
作品を無断で加工・改変することは、同一性保持権の侵害にもなり得ます。
3. 肖像権・パブリシティ権の侵害
被写体が本人と特定できる場合、肖像権やパブリシティ権(有名人の場合)の問題も発生します。
4. 事後承諾では遅い
発覚後に「許可を得た」としても、事前に承諾を取るべきという批判は免れません。法的には事後承諾で解決しうるものの、社会的信用やモラルの面では回復が困難です。
著作権侵害のリスクは想像以上に重い
民事責任
- 差止請求:作品の削除・販売停止を求められる
- 損害賠償請求:数十万円〜100万円超の支払い命令例も
- 不当利得返還:不正に得た利益を返還する義務
- 名誉回復措置:謝罪文の掲載など
刑事責任
著作権法違反は犯罪行為です。被害者が告訴すれば:
- 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(著作権侵害)
- 5年以下の懲役または500万円以下の罰金(著作者人格権侵害)
(根拠:著作権法第119条第1項・第2項)
「知らなかった」では済まされない──それが著作権の世界の厳しさです。
クリエイター・SNS利用者・企業が気をつけるべきこと
イラストレーター・デザイナーの方へ
- 練習目的のトレースはOK、ただし公開・商用利用はNG
- 参考素材は著作権フリー・トレース許可済素材を使用
- 構図・ポーズ参考でも「直接感得」できるほど似ていればアウト
- 契約書で著作権の帰属を明確にしておく
SNSで写真を投稿する方へ
- SNS投稿写真も著作物として保護される可能性あり
- 無断使用を発見したらスクリーンショット・URL記録で証拠保全
- 内容証明で使用停止を正式に求めることも可能
企業・事業者の方へ
- 外注先が権利侵害をしていた場合、発注者も責任を問われるリスク
- 契約書には「第三者の権利を侵害していない保証」条項を
- SNS投稿・Web制作では素材の出典を必ず確認
行政書士ができる著作権トラブル対応
行政書士は訴訟代理はできませんが、トラブルの「前段階」から実務的な解決を導くことができます。
① 内容証明郵便の作成
著作権侵害が疑われる場合、法的根拠を明示した内容証明を送付し、早期の使用停止・削除を促します。
② 契約書作成・リーガルチェック
- イラスト制作委託契約書
- デザイン業務委託契約書
- 著作権譲渡契約書
- ライセンス契約書
著作権の帰属や利用範囲を明確にする契約を作成します。
③ 著作権対策のコンサルティング
- SNS投稿ガイドラインの策定
- 社内研修資料の作成
- 画像・素材の使用ルール整備
近年では、SNSやネットショップ運営者からの相談も急増しています。当事務所では、デジタル時代の著作権課題に対応できる仕組みを整えています。
④ 和解合意書・示談書の作成
当事者間で解決に至った場合、法的効力を備えた文書を作成します。
著作権は「知らなかった」では済まされない時代へ
SNSやAI時代の今、著作権の問題は誰にでも起こり得るテーマです。作品を「つくる人」「使う人」「発信する人」──すべての人に関わります。
- 使う前に必ず許可を取る
- 契約書で権利関係を明確にする
- トラブル時は専門家に早めに相談する
この3つを徹底することで、多くの問題は未然に防げます。
久留米で著作権トラブル・契約書作成のご相談なら
行政書士権藤涼太事務所では、著作権やSNSトラブルに関する内容証明作成、契約書作成、和解書作成などを承っております。
当事務所は日本行政書士会連合会 登録「著作権相談員」として、著作権法に関する相談対応に力を入れています。専門的な研修と考査を経て認定された資格者として、実務経験と最新の法令知識に基づいた、安心してご相談いただけるサポートを提供しています。
「これって著作権侵害になる?」
「契約書にどんな条項を入れればいい?」
「無断使用されて困っている」
そんなお悩みがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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