成功する人・失敗する人の違いを行政書士が本音で解説します
こんにちは。福岡県久留米市で創業・事業支援を行っている行政書士、権藤涼太です。
創業を目指す方からよくいただくご相談のひとつに、こんなものがあります。

「自己資金が全くないんですが、それでも補助金や融資って受けられるんでしょうか?」
まず、ここで結論をはっきりとお伝えしておきます。
自己資金ゼロでも、融資は“狙えます”
自己資金があれば心強いのは確かです。しかし、資金の有無だけで審査が決まるわけではありません。
日本政策金融公庫の「新規開業資金」など、自己資金の要件を設けない制度もあり、ゼロでも申し込み自体は可能です。
とはいえ、必ず自己資金がなくても融資が受けられる、わけではありません。
その違いを分けるのは、「お金があるかどうか」ではなく「準備の中身」です。
注目すべき融資制度(創業融資系)
- 新規開業資金(日本政策金融公庫)…最大7,200万円まで。自己資金無しOK ですが申込内容により限度額は変わります。
- 中小企業経営力強化資金…新事業支援型。こちらも要件非設定のため資金ゼロでも申し込み可能
- 挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)…返済の途中でも自己資本に組み込めるタイプ
- 制度融資(地方自治体+保証協会)…自治体により要件は異なるが、自己資金が不要なケースも
- 商工会・商工会議所を通した融資相談…自己資金が不要なケースの融資制度を案内してくれることも
これらはすべて、“計画の中身を重視する制度”として、有効な選択肢です。
自己資金ゼロでも通った人の共通点は
1. 売上・支出の根拠がしっかりしている
「この金額なら月にこれくらい売れれば返済できる」という感覚だけでは通りません。
- 設備費・初期経費などの見積書が具体的に揃っている
- 売上予測がターゲット・客単価・回転率から逆算されている
- 損益分岐点とキャッシュフローが論理的に説明できる
数値に現実味があり、担当者が“納得できる”ことがカギです。
2. 実際に動いている証拠がある
- 店舗物件の内覧を済ませている
- 仕入先やメニューなどのビジネス構想が整理されている
- SNSやホームページ、開業予定日などが既に具体化している
机上の空論ではなく、「すでに走り出している事業」として伝わると、信頼感が一気に高まります。
ただし、ここで先に設備や備品を購入してしまうのは注意が必要です。
多くの制度では、融資決定前に支払った経費は対象外とされることが多く、「あとで融資が降りたら払えばいいや」と考えて動くと、その支出がカバーされない恐れがあります。
- 設備や物件は「見積取得」「仮契約」までにとどめる
- 契約・支払いは「融資決定後」に行う
- 見積書や契約書で資金使途を証明できるようにしておく
これが融資審査をスムーズに通すための基本です。
そして、どうしても購入せざるを得ないものや、先に押さえておきたい物件がある場合は、必ず事前に融資担当者に相談してください。
制度やケースによっては、例外的に扱ってもらえる可能性もあります。迷ったら早めに一声かけておくのが、結果的に一番安全です。
3. 融資だけに依存していない計画かどうか
たとえ自己資金がゼロだったとしても、「融資しか頼れない」という印象になってしまうと、金融機関の評価は厳しくなります。
逆に言えば、複数の選択肢を想定しているかどうかが、審査上の大きなポイントになるのです。
たとえば以下のような視点があるかどうか。
- 補助金や助成金の申請も視野に入れている
- 親族やパートナーからの支援がある(貰うのか、借入するのかは明確に)
- 設備資金と運転資金のバランスが適切に計画されている
- 売上が立たなかった場合の代替策や支出コントロールの方法を示している
こうした備えが見えると、金融機関は「この人はリスクを冷静に把握し、柔軟に対応できる」と感じます。
審査の場では、“万全”より“想定済み”の姿勢が、かえって大きな安心材料になるのです。
つまり、資金計画の段階で「融資以外の手段もきちんと考えている」という姿勢を見せることは、自己資金が少ない方こそ意識したいポイントです。
通りにくいのは「計画があいまいなケース」
自己資金ゼロで通らなかった方の多くに共通するのが、
- 「いくら必要で、なぜその金額か」の説明ができない
- ターゲットや集客方法が曖昧で、収益の見通しが立っていない
- 万が一の想定やリスク対策が準備されていない
つまり、“やりたい”気持ちだけが先行していて、事業としての現実性に乏しいケースです。
実際に私も、融資担当者にこう突っ込まれました
創業当時、私自身が融資担当者との面談を受けた際にこんな質問を受けたことがあります。
「この売上、正直いって根拠が少し弱いですね…」
「月々の返済、ちゃんとできる見込みはありますか?」
「周辺地域のマーケティング調査情報がもっと欲しいですね」
どれも一見、ごく普通の質問のように聞こえるかもしれません。
でも実際に対面すると、こちらの準備が甘かった部分を鋭く突かれる緊張感があります。
面談は、どうしても構えてしまいますよね。
でも、覚えておいてほしいのは「担当者は決して敵ではない」ということ。
むしろ、事業の将来性を一緒に確認し、「この人なら応援できるか」を見極めるために話をしてくれています。
だからこそ、よく見せようと取り繕うのではなく、強みも弱みも正直に伝えること。これが大切です。
そして「こう改善していく予定です」といった未来への対策が見えていれば、その誠実な姿勢こそが、担当者に信頼される最大の要因になります。
資金調達は単なる審査ではなく、「これから長く付き合っていくパートナーとの出会いの場」でもあります。
そのつもりで、誠意ある対話を心がけてみてください。
強みだけでなく、弱みも語れる人が信頼される
事業計画書では、つい“自分の強み”ばかり書きたくなります。
たしかに立地の良さ、専門性、人脈、熱意などは重要な要素です。
でも、融資担当者がより重視するのは、“弱み”をどこまで把握しているか、そしてそれにどう対処しようとしているか。
「集客はまだ手探りですが、広告費を抑えながらテスト運用を重ねて改善する計画です」
「経営経験はありませんが、商工会や支援機関と連携しながらスタートします」
このように弱みを隠さず、対策まで言語化できている人は、圧倒的に信用されます。
そしてそれは、開業後の経営力そのものにもつながる視点なのです。
自己資金がないことは、決して恥ずかしいことではありません。
でも、準備不足のまま「なんとかなるだろう」と申請してしまうと、それは必ず見抜かれます。相手は融資のプロです。
資金が足りないからこそ、“自分の事業を冷静に見つめる力”と“それを言葉にする力”が求められます。
行政書士はこうした事業計画の整理から、補助金・融資の活用まで、創業者の伴走支援を行っています。
その小さな一歩が、あなたの事業にとっての大きな分岐点になるかもしれません。
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